44の週刊リプレイ本紹介 3月分

twitterのやつをまとめました。
今月はなんとリプレイ関係者の方から返信も頂いてしまいました。開始したときから来るかもとは思っていたんですが、実際に来ると想像以上に嬉しいものですね。返信を頂いたお二方、本当にありがとうございました。

アリアンロッド・サガ・リプレイ・デスマーチ 死んで花実が咲くものか! (富士見ドラゴン・ブック)


第10回は、田中信二氏の作品から「アリアンロッド・サガ・リプレイ・デスマーチ」シリーズを選びました。(7,8巻は藤井忍氏との共著)(田中信二氏は、「かわたな」という愛称でおなじみですが、これは「かわいそうな田中」の略となります)
デスマーチ」と不穏な名がついていますが、これにはもちろん理由があります。
アリアンロッド・サガ無印シリーズにおいて、菊池たけし氏オハコの読者投稿企画を実施予定だったのですが、無印3巻のシナリオ展開のせいで読者投稿NPCの登場が難しい事態になってしまいました。もちろん、読者投稿企画をなかった事にするわけにはいかず、ついでにサガ無印で描けなかった(無印主人公の)ピアニィ達の後始末をフォローすることまで織り込むために、急遽立ち上げられたのがこの「デスマーチ」シリーズになります。
主人公は、無印に登場するPCアルの義妹という設定のアキナを声優の酒井香奈子氏(現:さかいかな 現在は舞台俳優をメインに活動)が演じています。このシリーズはアキナの成長譚と言っても過言ではなく、ステータスの成長はもちろんのこと、精神面の成長も描かれています。
他のPLは、たのあきら氏と鈴吹社長ときくたけ氏。重鎮ばかりなのは、「デスマーチ」になってしまった尻拭いなんでしょうか。たの氏のPCマルセルは当初設定はスゴイ嫌な奴だったのですが、後半はほぼツンデレの萌えキャラと化すなど、うまくキャラをコントロールしています。社長ときくたけ氏のPCは引っ掻き回しているいつものシーンも目につきますが(カッコいいシーンももちろんあります)、そこをGMであるかわたな氏が同時展開していたシリーズのGMである両氏に大して逆無茶振りするなど、ある意味バランスは取れている構成です。
このリプレイは今までのリプレイにあまり取り込んでいなかった要素を多く取り込んだシリーズになります。そのうちの1つは、各巻最初の1話開始直後に2〜4pのショートコミックが全巻に渡ってついています(サガ・無印シリーズも3巻まではついていました)。最初の巻だけとかシリーズ終了のクライマックスなど個別に行われたことはありますが、これは視覚的な効果は非常に大きく、話の導入としては非常にとっつきやすくなっていると思います。
もう1つの珍しい要素を挙げると、非常に多くのミニイラストがページに差し込まれています。これは前回に紹介したような新紀元社の新書形式のリプレイではよく使われているのですが、新書版の方は元々下部に空きスペースが用意されているのに対し、こちらは版の中にイラストが組み込まれており、この形式はリプレイではおそらく初めてかと思います。こういう表現を行ったのは、もちろん読者投稿NPCを少ないスペースで数多く掲載したいという点もあったのでしょうが、紹介だけでなくそのシーンに合わせたキャラの表情も挟み込まれていたりするので、今見るとまるでLINEなどのスタンプのように端的にそのシーンの状況を捉えやすくしています。
非常に多くのシリーズが展開された「アリアンロッド・サガ」ですので、シリーズ単体だとわかりづらい点もあるかもしれませんが、その分を割り引いたとしても、個人的一押しはこの「デスマーチ」シリーズです。
それでは、よきリプレイライフを。


アキナ役のさかいかなさんからご紹介いただきました。

シノビガミ 平安リプレイ うたものがたり (Role&Roll Books)

シノビガミ 平安リプレイ うたものがたり (Role&Roll Books)

シノビガミ 平安リプレイ うたものがたり (Role&Roll Books)


第11回は、長尾姿子氏の作品から「シノビガミ 平安リプレイ うたものがたり」を選びました。
長尾姿子氏は冒険企画局所属の音楽家という肩書をお持ちですが、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。でも、リプレイ好きの方なら、迷宮キングダムリプレイ「黙示録の乙女」の主人公"リジィ"、「シノビガミ悪」リプレイで強烈な大悪女"計図"を演じた"シナコ"さんのことなら聞き覚えがあるかと思います。このリプレイは、そのシナコ氏がはじめて手がけたリプレイで、まるでシノビガミ悪での印象を払拭するかのように、複数の男性の間で移ろう女心を主題とした乙女ゲー的展開で始まります。
主人公にTRPG未経験の方を据えたこともあり、スタートブック上巻のデータだけでPCを作成しています。初心者導入で上級ルールやサプリメントを利用しないリプレイは今までもありましたが、分冊の一部しか使用しないのは珍しい展開です。
シノビガミは他のPC個人には自分から明かせない「秘密」を持ち、時には他のPCを排除してその使命を達成するTRPGです。通常は現代日本を舞台としますが、これは平安時代の日本を舞台とし、タイトルに「うたものがたり」とあるようにストーリーには和歌が大きく関わります。
冒頭にシナコ氏は「ほのぼのホームドラマ」を狙うと宣言しています。序盤こそイケメンPC達がPLの考える色々なイケメン感で主人公に迫ったりはするのですが、シーンが進むに連れ徐々にタイミング悪く陰惨な設定が明かされていき、「ほのぼの」とはいったい…… と思わせる内容となっています。確かに、乙女ゲー風とはいえせっかくのシノビガミなのですから、イケメン枠のPC達が「単に主人公をものにする」だけの「秘密」ではもちろんつまらない訳です。タイミングも良かった(悪かった)とはいえ、このように上手く「秘密」を仕込むのはとてもシノビガミGMをほとんど経験していないとは思えません。他にも、主人公の秘密に毎サイクル「意中の相手」を記入させたり、和歌の上の句という設定で実際に17文字書かせたりというような、個性溢れるマスタリングも出てきて、全体として非常に面白い作品になっています。
シナコ氏は、(冒企作品を除き)一番好きなTRPGは「PARANOIA」、一番好きなボードゲームは「ディプロマシー」と答えており、これだけでかなりのゲーマーっぷりが伺え、それがうまくシナリオにも生きたのかもしれません。
また、冒険企画局のサイコロ・フィクション新書には恒例の、巻末に謎ランダム表が付いているのですが、これにはなんと「歌表」がついており、サイコロを振るだけで31文字の短歌ができるスゴイ表になってます。まあ例によってかなりの確率でカオスになるんですが。
それでは、よきリプレイライフを。


著者の長尾姿子さんからご紹介いただきました。

血の妖石(いし)は宿命(さだめ)の道標(しるべ)―Replay:ゲヘナ‐アナスタシス (integral)


第12回は、友野詳氏の作品から「血の妖石(いし)は宿命(さだめ)の道標(しるべ)―Replay:ゲヘナ‐アナスタシス 」、通称<運命>シリーズ(?)を選びました。
ゲヘナは、「アラビアン・ダーク・ファンタジー」と銘打っており、一般的なTRPG世界観である西洋風ファンタジー世界とは趣の異なる、アラビアンナイト的世界を舞台としています。PCは、超人的な力を振るう享受者となり、主に紫杯連(享受者のギルドのようなもの)の依頼を受け、魔物を退治したり人を唆し陥れる邪霊(シャイターン)の企みを阻止するなどして日々の糧を得、最終的にはゲヘナ(煉獄)に落とされたこの大地(ジャハンナム)から、地上に到達するのを目的としています。って、これだけではなんのこっちゃという感じですよね。
もちろん自分の筆力が足らないのもありますが、一般的なTRPG世界観からはかなりかけ離れており、説明をしてもしても終わらないので、詳細は次のURLでも見てください。(雑)<http://www.jive-ltd.co.jp/gehenna/world/index.html
また、ゲヘナは、ダメージロールと命中ロールが統合されていたり「闘技チット」と呼ばれる必殺技のためのリソースがあったりなどと、ルールも特徴的なのですが、やはり説明終わらないので詳細は省きます。
さて、リプレイの説明に戻って、このリプレイは「ゲヘナ」の版上げ「ゲヘナ〜アナスタシス〜」の高レベルリプレイになります。
PCは4名ですが、初心者対応も合わせて、ルール上は技能扱いの妖霊(ジン)をサブマスが兼務でプレイすることで、プレイヤーは実質4.5人となっています。この立ち位置の設定だけでピンとくる方もいるかも知れませんが、このサブマス兼務の妖霊が大きくシナリオに関わってきます。
PC達も個性的なメンツが揃っています。表主人公は高レベル妖霊にまとわりつかれた設定のイルク、裏主人公は暗い過去を抱えトラップ魔術で四肢を弾けさせるツンクールのシシ、グレイブとトマホークの両刀使いノーテンキ娘フィールー、恋人とも死に別れた生体鋏使い「死神」ガラーム、そして、イルクに「結婚して」とまとわりつく強力な妖霊のターブ。
そのターブに埋め込まれた赤い妖石、そして各PCが持っている妖石が、PC達を運命の渦に巻き込み翻弄していくストーリーなのですが、これを4巻できれいに纏めているのはさすがは実績と経験豊富な友野氏というところでしょうか。
ルールの運用でも面白い点があり、シシの説明で「トラップ魔術」と書きましたが、シシがメインとする術技(技能)「黒沙術」には、相手の行動に対応して自動発動するが事前準備していないといけない、という術技が複数あるのですが、これを普通に行動宣言して準備するとGMにその「トラップ」の内容がバレてしまい、GMは敵の動きに影響与えるのが不可避で、PCも敵(GM)をトラップにかける達成感が薄れるという微妙な点があるのですが、これを回避するためにシシのPLは、白紙カードに事前に書き込み裏返して使用するという方法をとっています。
もちろん、GMとPL間に信頼関係がないと成立しない運用なのですが、これが正式ルールでもいいのではないかと思えてしまうくらいでした。
また、上位邪霊や首領級邪霊の設定はリプレイ本の中にも書かれているのですが、どれも人間の理解の外にあるようなぶっ飛んだ設定になっており、どうやったらこんな「イカレた」設定を思いつけるのか、と感心してしまうほどです。
また、そんな邪霊達を演じる友野GMの楽しそうな様子も本文から伝わってくる感じで、さすがはルナルで「多足のもの」などを登場させたGMらしいなあと思ってしまいます。
過去記事では、友野氏の作品の一つをワースト4に挙げましたが、この作品は非常に面白く多くの人にオススメできます。また、ゲヘナのリプレイはいい作品が多いので、多くの人の目にとまってくれると嬉しいです。
それでは、よきリプレイライフを。

異界戦記カオスフレア リプレイ リオフレード魔法学院 [Role&Roll Books] (Role & Roll Books)


第13回は、小太刀右京氏と三輪清宗氏の共著の作品から、「異界戦記カオスフレア リプレイ リオフレード魔法学院」を選びました。
クレジットは共著になっておりますが、三輪氏は主に追加データの方を担当しているということで、リプレイ部分のメインライターは小太刀氏になっています。小太刀氏は、マクロスBORUTOなどのアニメの脚本やノベライズでの仕事が最近多いみたいですが、このリプレイに使用されているTRPG異界戦記カオスフレア」が商業デビュー作品と、元々TRPG畑の出身ですね。
異界戦記カオスフレア」は、トランプとダイスを併用するTRPGで、トランプのスートに合わせ、大まかなキャラの役割(コロナ)を4種類に分類しています。カオスフレアのシステム上の特筆する部分は、判定に使用するトランプをロールプレイに合わせてGMまたは別PLから譲渡してもらえるという部分で、これによりシステム面からロールプレイを活性化させるシステムとなっているところです。
また、詳細は省きますが(またかーい)、いろいろな異世界を内包した世界観であることより、非常に多彩なバリエーションのキャラを作成する事ができ、例えば、ドラゴンと宇宙戦艦が殴り合いを行うなどの常識外れなシーンも再現することが出来るシステムになっています。多彩なキャラクターが派手なロールプレイを行うという点で、カオスフレアは非常にリプレイに向いたシステムと言えるのではないでしょうか。
タイトルにもある「リオフレード魔法学院」は、南海の孤島にあるあらゆる世界の学生を受け入れる学校となっており、小太刀氏も例として挙げておりますが、かなり蓬莱学園を彷彿とさせる設定です。この「学院」は、基本ルルブ(第一版)に記載はなく、このリプレイにより設定されたものではありますが、前述したような多彩なバリエーションのキャラを無理矢理一つの話に入れ込むツールとしては、非常に良い設定だと思います。
PLには、加納正顕氏、合鴨ひろゆき氏、三輪氏、鈴吹太郎氏を迎えており、いずれも経験豊富で非常に豪華なメンバーとなっています。加納氏演じるのが、コロナが聖戦士(主人公役)のアヴァタール(雑に言うとジョジョのスタンドっぽい何か)使いの地球人でシスコン 泉祐司、合鴨氏が光翼騎士(盾役)の吸血鬼の風紀委員 ノエミ、三輪氏が星詠み(バフ・回復役)の暁帝国(中華風世界)の小国の王女 ナーミア、鈴吹氏が執行者(デバフ役)で島の化身怪獣リオフレードン…… の巫女で天才幼女先生 カシス(ルール上はリオフレードンが本体扱い)
鈴吹社長のリオフレードンは、またいつもの出落ちキャラかと思われるかもしれませんが、当時はそこまで前例がなく、攻撃を大地からのマグマの奔流で表したり、デバフ効果を大地の鳴動で表したり、という扱いにしたのは感心したものです。
1冊2話ということもあって、シナリオも短くはありますがネタが高密度で詰まっており、クラスメイトに油すましやエントやサイボーグがいるようなカオスな学院の中でドタバタありシリアスありと読み応えのある展開になっています。
格ゲーキャラや魔法少女、侍・ニンジャや変形ロボ、果ては北斗神拳もどきや宇宙戦艦に宿る船霊(女性型)や《光になれ!》までプレイできる異界戦記カオスフレアの世界に一度触れてみるのはどうでしょうか。
それでは、よきリプレイライフを。