リプレイ本500冊以上を読んだ私が独断と偏見で選ぶワースト四天王(+4)

ベスト10の記事が思ったより反響があったので、急遽考えた…… という訳では実はありません。当初からワースト5選という形で選定はしていたのですが、ベスト10と同じ記事に集約してしまうと長くなりすぎるので、掲載を見送っていました。
ただ、今回記事にするあたって再度リプレイ本文をざっと確認をしたら、いろいろなことが頭を巡って残りの1個が決められなかったので、結局ワースト4選という形に。
今回も相変わらず、私の独断と偏見で選考していますが、リプレイ本の定義と選定基準はベスト10と同様になります。ただし、ワーストの基準としては、「お話としてつまらない」という訳ではなく、「なんでこんなんやっちゃったかな」という感じの基準になります。



ソード・ワールド2.0リプレイ 拳と魔封の物語(1) (富士見ドラゴン・ブック)

GMが1人のPLをまったく制御しなかっただけでなく、そのPLの思惑を自分の思い描いていた構想に乗っからせる形でストーリーを構築した作品です。
商業リプレイの場合は、先を見越したストーリー展開をする必要があるため、ある程度*1は吟遊マスター的な要素が入ってしまうのも構造的には仕方がない部分はあります。
そうはいっても、裏切り者設定のPC(アン)を実質メインに据えた挙句、やりたいようにやらせて最終巻で完全裏切りからの○○◯○が既定路線、しかもその設定はアンのPLと一緒に考えたものだなんて、これでは他のPLが怒るのも想像に難くない*2ところです。
PCとしてのアンのやり過ぎの行動に関しては早めに修正することも可能だったはずで、GMである諸星氏にその気がないのなら、監修にクレジットされている北沢氏*3が手を入れるべき部分だったのではないのでしょうか。
こういう事情もあって最終話まで残り2話という段階で大事件*4発生。イベント戦闘と明言されている状況で、PC2人がボスに殴りかかって返り討ちにあい生死判定。その結果、PC1人が生死判定に失敗した挙句あまつさえ蘇生拒否。カラト(のPL)もこれまでの扱いを考えると嫌になる気持ちも分からないでもないのですが、リプレイという場を考えるともっと大人の対応があったんじゃないかとは思います。
しかし、これについてはGMが一番悪いのは変わらないところで、イベント戦闘と明言したならダメージ手加減とかすればいいのに、ダメージをサイコロで振っただけでなく、一度は生死判定は自動成功とすると宣言したにも関わらず生死判定のサイコロをPLが振りたいと言った要望を通すとか、どんな指針でマスタリングしているのかさっぱり分かりません。
結局のところ、GMが裏切り者設定を御しきれずアンのPLのストーリーに乗っかるのであれば、さっさとNPCとしておけば良かったんじゃないかなと思います。
ただ、それだけではなく、地の文中にこんな記述も

「6なら、大丈夫」
サイコロを振るとき、こうした気のゆるみが一番いけないものだとは、全員が分かっていたはずなのですが――。
ソード・ワールド2.0リプレイ 拳と魔封の物語(3) (富士見ドラゴン・ブック) 94pより

あったりして、自分の責任はおもいっきり棚上げしてPLの責任にする始末。だいたい、2d6で6以上だなんて72%しかないんだから、これは体感的には5割以上で失敗すると考えても過言ではないくらい。そもそも、サイコロを振るという行為に「気のゆるみ」なんて本気で書くって意味が分かりません*5。ゲーマーたるもの、サイコロの結果に残念がることはあっても、出目に怒りをぶつけたり、本気で精神論のせいにしたりはしたくないものです。


バルナ・クロニカ リプレイ 真王姫の叙事詩 プリンツェザ・サーガ I (Role&Roll Books)

既存のリプレイとは一線を画したローズトゥロード リプレイ ソングシーカー (Role&Roll Books)で評判を博した小林正親氏の久々のリプレイだったので少し期待していたのですが、中身は非常に残念な結果に終わってしまいました。大抵の本はつまらなかったとしても最後まで読み終えるタイプの私ではありますが、500冊超読んだリプレイ本の中で途中で投げ出しそうになったのは、覚えている限りこれ1冊だけです。
どうしてこの本がダメだったかというと、プレイの様子を忠実に書き起こした、ただそれだけだったからです。
確かにリプレイ本は実際に行われたゲームのプレイの様子を元に書かれたものになります。これは、TRPGリプレイを実際に書いてみようとした人*6は分かるかと思うのですが、どんなに楽しいプレイ(セッション)であったとしても、そのまま書き起こしただけでは読み物として全く面白くならないのです。セッション中はあんなに楽しかったのに、録音を聞いているだけでも面白いのに、セッションに参加していない人に見せると「よく分からんし、つまんない」と言われてしまうという挫折はリプレイを書いた経験のある人にとってはよくあることなのではないでしょうか。そういう意味では、どこか懐かしい目で見ることができる作品なのかもしれません。
本書のあとがきにこうあります。

(リプレイ本を)いかにして読みやすくするかは、編集とデザインの力が大きく影響しています。
バルナ・クロニカ リプレイ 真王姫の叙事詩 プリンツェザ・サーガ I (Role&Roll Books) 239p

確かにそういう要素は多分にあると思います。デザインはともかくとしても、タイトルに「I」とあるのにそれ以降続編が出なかった*7ことが、「編集」を疎かにした作品がどうなってしまうかを端的に示していると思います。

ドラゴンマーク・リプレイ―若き竜の羽ばたき (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

既に補足記事でのブコメでネタバレ(オイ)されてはいますが、これを挙げないわけにはいきません。紹介する前に言い訳を一つ。このリプレイ本は、間違いなく所持していたはずなのですが、自宅を約半日探しても見つからず、どうやら腐海に呑まれてしまったようなので、一部記憶等を頼りに書かせていただきます。
このリプレイ本は、ひたすら説教、説教、そして説教で構成されています。それはもう読んでて嫌になるくらいに。
読者はリプレイを通じた面白いストーリーを楽しんだり、ドラゴンマークという新しい世界を理解したりするために購入した人が多いかとは思うのですが、たとえ説教の内容自体は的を射ているものが多かったとしても、TRPGのプレイにおける説教を読むためにリプレイを購入した人なんて居る訳がないです。
友野詳氏もルナルやゲヘナで面白いリプレイを書いていますが、それらの作品群の中でこのリプレイだけ異様に特殊な立ち位置になっちゃってます。いろいろと想像しちゃうところはあるのですが、ここで書いても下衆の勘ぐりにしかならないので……

フォーチューンの海砦(V3 Edition)〈上〉―セブン=フォートレス・リプレイ (富士見ドラゴンブック)

これも有名なリプレイですが、ここで挙げてしまうのは正直悩みました。どうしてかというと、騒動自体の内容が本単体で見た場合、どこにも記載がないから*8です。それに私は、当時のRPGマガジンはもちろん、ゲーム・フィールド版のサプリメントも読めていないため、詳細な経緯は分からないのですが、wikipediaの記述及びこちらのブログ(http://blog.goo.ne.jp/take_14/e/6bf3fc42a831aed69208b49a26c04370)のコメント欄に出てくる方の発言が真実であると仮定するとやはり、人間関係のトラブルでPL2名が離脱したのは間違いないようですね。
まあ「知力3」のミリアはもちろんのこと、「カニ」でも大概だったのにゴローはよりパワーアップしてイジられてるのを見ると、人間関係のトラブルとなってしまったのも仕方のないところなのかもしれません。



ここから下は、ワースト5として一度は考えたものの、上記に及ばなかったものを挙げていきます。

ダークブレイズ イラストレーター・セッション・リプレイ それゆけ!中古車戦車隊 (Role&Roll Books)

ダークブレイズ イラストレーター・セッション・リプレイ それゆけ!中古車戦車隊 (Role&Roll Books)

ダークブレイズ イラストレーター・セッション・リプレイ それゆけ!中古車戦車隊 (Role&Roll Books)

著者が加藤ヒロノリ氏というところで想像付く人はいるかとは思うのですが、セクハラ発言がかなり多いリプレイとなっています。PCは全員女キャラ*9なのに、戦車の名前は「ピンクローバー号」、戦車隊の名前は「はなてん中古車戦車隊」。もちろん、「中古」の意味は…… って危ない、自分からセクハラしてしまうところだった(手遅れ)。
選考から外れた理由は、ざっと読み返した時にセクハラ要素が思ったよりだいぶ少なかったところにあります。とはいっても、十分に多いと感じる人もいると思います。

クトゥルフ神話TRPG VS いい大人達 リプレイ 生放送で邪神召喚! (ファミ通文庫)

クトゥルフ神話TRPG VS いい大人達 リプレイ 生放送で邪神召喚! (ファミ通文庫)

クトゥルフ神話TRPG VS いい大人達 リプレイ 生放送で邪神召喚! (ファミ通文庫)

著者の「いい大人達」は、ニコニコ動画で主にゲーム実況を行っている有名グループ、らしいですが、実はこのリプレイ買うまで私は彼らのことを全く知りませんでした。その「いい大人達」がエンターブレイン社の企画で、クトゥルフ神話TRPGをニコニコ動画で実況プレイした様子を坂東真紅郎氏がリプレイとして書き起こした本になります。
このリプレイは、シナリオも単純だし裁定も甘い部分は多く、実際にクトゥルフ神話TRPGをプレイする上での参考にはほとんどなりません。しかし、キーパー(GM)を担当する「いい大人達」のタイチョー氏は、ほぼTRPG未経験ということ、また、既にニコ動で配信されているため極端な改変が不可能なことより、これらの欠点はある意味仕方のない部分で情状酌量の余地はあります。
では、どこが問題だったかというと……

タイチョーの後日談4
ちなみに赤山氏のモデルですが、某スマイル生放送に関わりのあるどこかの社員さん……とだけここに記載させて頂きます!!
クトゥルフ神話TRPG VS いい大人達 リプレイ 生放送で邪神召喚! (ファミ通文庫) 64p

この「赤山氏」とは、このシナリオにおける狂言回しの役で、「どうしようもないお荷物キャラ*10」を設定されているNPCです。
確かに、クトゥルフのシナリオにおいて、そういう設定のNPCが臨場感を掻き立てる上でもシナリオを進めていく上でも有効であることは事実でしょう。そして、クトゥルフに限らずTRPGにおいて、実在の人物をモデルとしたNPCは、PLに印象づけやすいという利点もあります。
ただ、特に了解を得たようにも見えずクレジット表記もない人物を、無能設定のNPCのモデルであるとわざわざ公言することに何の意味があるのでしょうか。もしかすると、このモデルとなった人物はニコ生界隈で有名なのかもしれませんが、そういう認識のない人も読むと思われる書籍において、この記述を読まされた自分はものすごい不快感を覚えました。まあ、タイチョー氏とは個人的にいろいろあったのかもしれないですが、我々読者としてはそういう部分はどうでもよく、単に陰口を叩いているようにしか見えない訳で。
まあでもこれに関しては、書き起こしの坂東真紅郎氏にはもちろん責任はなく、コラム部分を書いたタイチョー氏個人だけを責めるよりは、こんな記述すら添削できなかったファミ通文庫編集部の人にも責任の一端はあると思います。
こんだけ長く書いているくせに*11選考より外れた理由は、うっかり書いてしまった一文だけが問題なので、さすがに四天王と並べるのは可哀想かなぁと思ったところです。

ゴーストハンター13タイルゲーム リプレイ 1000の部屋を持つ館 (ネオゲーム文庫)

リプレイ本の定義より別にプレイするのはTRPGでなくても構わないので、1冊くらいはTRPG以外のものも選択しとかなきゃと思いました(オイ)。*12
ゴーストハンターRPGも確かそうだったと思うのですが、ゴーストハンター13タイルゲームもトランプを使用したシステムとなっています。ただ、背景設定がクトゥルフ神話TRPGと非常に似通っているだけでなくシステム中に発狂要素もあるため、クトゥルフのパクリみたいに思えてしまってる人もいるかもしれません、というかむしろクトゥルフ神話に出てくるものが出て来ないほうが不自然*13かも(言い過ぎ)。
このゲームでは、非公開情報の狂気カード(トランプ)を手札として持ち、自分の正気がどれだけ保たれているかは具体的な数値ではなくロールプレイとして表現しなければならないのですが、

家相占い師トヨ氏 ん〜……これだ!(ぴらっ) お、7のカードだ。
霊能者ヒヨコ氏  お! 一番高いカードだ! これでMP0から復帰! 正気は保たれた。
ゴーストハンター13タイルゲーム リプレイ 1000の部屋を持つ館 (ネオゲーム文庫) 73pより
科学者バット君 どんと来いです。2枚とも絵札なら藤澤さんを治してあげられるかも……とうっ!
エネミー藤澤  お? お?(わくわく)あ! 絵札キターッ!
科学者バット君 でも数字札もキターッ!
ゴーストハンター13タイルゲーム リプレイ 1000の部屋を持つ館 (ネオゲーム文庫) 152pより

のように、具体的数値を発言してしまっている様子が残ってしまっています。確かに、実プレイでこの手の発言が出てしまうのは避けられない所で、あまり厳密に咎めても場の雰囲気がギスギスしてしまうなどの問題はありますが、新しいボドゲの紹介リプレイであればこの手の表現は避けて欲しかったところです。
せめて、同じ著者の新ソードワールドRPGリプレイ集NEXT(2) ダンジョン・パッション (富士見ドラゴンブック)の第5話における、ジャイアント・スラッグ戦における描写と補足*14のように、枠外やカッコ書きなどで補足するべきだと思います。
これを選考から外した理由は、ダメな部分のパンチが弱いからです。これだったら、某極道の方がダメかもしれません(弱気)。

ダブルクロス・リプレイ・エクソダス(1) 悲しきランナウェイ (富士見ドラゴン・ブック)

F.E.A.R.のリプレイではありますが、ひとつ前で挙げた本の著者グループSNE藤澤さなえ氏がPLとして参加しているリプレイですね。
2巻の最後でバックトラックに失敗した矢野俊策氏演じる諏訪原真也の扱いを3巻でどうするかというところがポイントなのですが……
以降、物語の結末も含めたネタバレとなるため、この本を読んで楽しみたいと思う方は、ここから下は読まないようにお願いします。













自分は、真也のこの結末 ―暴走の可能性を常に孕む理性のあるジャーム― にあまり納得はできませんでした。
ジャーム化したPCはNPCとなりジャームから元には戻れないというのが基本ではありますが、個人の卓ではジャーム化から復帰するような設定を作っても、もちろん構わないと思うのです。ただ、公式リプレイであるせいかジャーム化からの完全復帰というのはさすがに設定できないため、暴走の可能性を常に孕む理性のあるジャームという結末の選択は、非常に中途半端に感じたのです。
もう一つ腑に落ちなかった点は、藤澤さなえ氏演じるエミリアの結末です。真也は暴走するだけのジャームからシナリオ1話分を通じて、暴走の可能性を常に孕む理性のあるジャームに落ち着きました。そして最終話において、エミリアはあえてバックトラックに失敗するということで、真也と同じ存在になり真也と同じ道を歩いて行くという道を選びました。
確かに、一見美しい結末のようにも見えます。ただ、えらく簡単すぎではないかと。一応本文中で理由が解説されてはいますが、真也はシナリオ1本分をかけて「救出」したのに、エミリアは特に制約もなく同じ存在になれてしまうというのは、ゲーム的面からもやっぱり不公平感があります。
これを選考から外した理由は、どう見ても自分の好み*15でないせいでイチャモンをつけているようにしか見えない点ですね^^;




*1:このリプレイは「ある程度」では済んでないですが……

*2:一応補足すると、他のPLが怒っているという直接の描写はありません

*3:北沢氏はおそらく、ワールドガイド的部分にしかほぼタッチしてなかったのでしょうが

*4:本来の用語からすると大惨事が正しいのでしょうが、F.E.A.R.のリプレイでは「大惨事」をいい意味として扱ってるので……

*5:私も重要なロールでは「気合を入れて」サイコロ振ってましたけど、確率に本気で影響があるとは思ってないわけで

*6:私もwebに掲載したリプレイの一部を編集した経験は辛うじてあります。

*7:バルナ・クロニカ自体もこれ以降何も出ることはなかった……

*8:セブン=フォートレス リプレイ フォーチューンの海砦 <上> (ファミ通文庫)でも同様

*9:なおPLは全員男

*10:292pに記載あり

*11:分量で分かるかとは思いますが、これを5選目にしようとしていました

*12:同じ著者ということで、id:T-3donさんに先に挙げられてしまったアレを忘れていて紹介できないという理由では決してありません(言い訳)

*13:実際にこれの大本のゲームをノベライズしたラプラスの魔 (角川文庫―スニーカー文庫)には、クトゥルフ神話要素があったりします。(参考)クトゥルフ神話系ライトノベルのリスト - クトゥルー/クトゥルフ神話作品発掘記

*14:SW完全版では、セージ判定に失敗しているのにGMの描写からPLの知識でモンスターを判断するのはアウトです。SW2.0ではOKになりましたが。

*15:「キミを倒す。もうどこにもいないキミのために!」が大好き